活動レポート
【開催レポート】TEENS meetup 2023 -未来のスタートアップ- (前編)
2023年6月24日、ナゴヤイノベーターズガレージにて「スタートアップ・ユースキャンプ」の事業説明会を兼ねた講演会イベント「TEENS meetup 2023 -未来のスタートアップ-」を開催しました。本イベントでは、アニマルスピリッツ合同会社 代表パートナーの朝倉祐介さん、株式会社StockBase 代表取締役の関芳実さん、FiberCraze株式会社 代表取締役社長の長曽我部竣也さんをゲストに迎え、起業において必要な精神性とリアルな苦労と楽しさを語っていただきました。
イベント全体の様子は、こちらからご覧ください。
登壇者の自己紹介
「未来世代のための社会変革」をテーマにベンチャー投資をおこなうアニマルスピリッツ合同会社を創業した朝倉さんからは、競馬騎手養成学校、東京大学法学部を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーから大学在学時に設立したネイキッドテクノロジー代表に就任し、ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任などの多様な経験をバックグラウンドにお話しいただきました。
会社の名前にも掲げられている「アニマルスピリッツ」という言葉には「何かを成し遂げようとする非合理なまでの熱意・血気・野心的意欲・動物的な衝動」という意味があり、これを朝倉さんは「誰からも頼まれていないのに、己が成し遂げなければならないと固く信じることの実現に向けて自ら率先して行動すること」と解釈し、起業の原動力となることをお話しいただきました。
また、このような精神を持って起業をしていくこれからの若い世代にとって必要な考え方はこれまで受けてきた教育とは異なるものだと朝倉さんは述べます。それは、「他人と違う自分をつくる」こと、「失敗を繰り返して学ぶ」こと、「自分の頭で考える」ことです。これらの価値観は従来の教育が「他人と同じことを同じ品質・同じ早さで」やり、「正しい答えにミスなく迅速にたどり着く」ことを重んじ、それを「決められた規則・手続きに従って」行うことを強調してきたこととは正反対の価値観であることを紐解いていただきました。これから事業を作っていく人たちにとって、「前ならえ(=人と同じことをしなさい)」を良しとする「普通のOS(オペレーションシステム)」を書き換える(アンラーニング=教わったことを捨てる)ことが必要であると会場を鼓舞していただきました。
最後に、起業のヒントを3つ提示していただきました。1つ目は「上手にリスクをとる」ということです。何かを挑戦することは怖いことだが、安定は組織に求めるものではなく自分で作り出すものであるため、上手にリスクをとることが重要だと朝倉さんは指摘します。そのためにはその挑戦によって自分が何を失うことになるのか考えてみること、プランB(うまくいかなかったときの別の選択肢)を予め準備しておくことが重要であるとのことでした。
2つ目は「お金を稼ぐことは悪いことではない」ことです。多くの人々はお金を稼ぐことはいいことではないという価値観を持っていますが、その価値観は不要だということでした。なぜなら、お金とは「誰かにいいサービスを提供した」ことの「ありがとうの総和」だからです。ただし、お金を儲けることが目的になってはいけなくて、「誰かに価値を届けて、その結果、お金が儲かる」という順番を意識することが大切であるということでした。
3つ目は「若さを味方につける」です。ビジネスはスポーツなどと違い、高校生は大人相手でも十分に勝てる領域であると朝倉さんはビジネスコンテストでの審査員の経験を踏まえて説明します。また、十代の感性はB to C(一般消費者向け商品・サービス)の領域において非常に有利であること、若さゆえにあらゆるコストを気にせずに事業に取り組めること、そして、失敗しても取り戻せる可能性に満ちていることを指摘して、会場の高校生たちにエールを送っていただきました。
横浜市立大学に在学中に株式会社StockBaseを創業し、防災食をはじめとする「企業内でまだ使用できるのに廃棄されてしまう資源の無駄」を循環していくプラットフォームを構築した関芳実さんには、ご自身の起業のきっかけをお話いただきました。
とあるボランティアに参加して「企業内で不要とされるモノは他の誰かにとって必要なモノかもしれない」と気づき、起業に至ったという話から、身近な風景の中から起業へとつなげていける姿を示していただけました。
自身が取りくんだ研究を元に、世界初の技術を用いた可能性に魅かれ、大学院在学中にFiberCraze株式会社を創業した長曽我部竣也さんからは、研究とビジネスを領域横断的に取り組んでいくことの可能性についてお話しいただきました。
自身の出身地である愛知県尾張一宮市の繊維業が盛んであったという特色をもとにさらに新しい製品を開発して盛り上げたいという思いから、繊維素材に穴をあけ防虫成分を閉じ込めることで蚊の吸血率を下げる糸を開発し、世界の蚊によって命を落とす人を救うことを目指しているとのことでした。岐阜・愛知から世界に誇る素材を作っていくという展望を示していただきました。
第二部 パネルトーク
第二部では本事業のディレクターである飯田一弘(ミテモ株式会社取締役)がモデレーターを務め、朝倉さん、関さん、長曽我部さんとパネルトークをおこなった。
飯田:起業という選択肢が人生の中で現れたのはいつからですか?
朝倉さん:私は父が自営業ということもあり、いつか起業をするということはずっと意識していました。日本の起業家を見ていると私みたいにご両親が自営業だったり会社の社長さんだったりする人と、ちょっとズレてる人が多いっていう印象ですね。
関さん:私が起業に出会った最初のきっかけは大学の授業で、ビジネスモデルを作ってビジネスコンテストでプレゼンをするという経験をしたことです。元々仲間と一緒に何かを作るということが好きだったのもあってやってみて楽しかったです。ビジネスコンテストに出てみて、自分たちの主観的な評価だけではなく、外からの客観的な評価をいただいたことでこの事業には社会的な意義があると思えて、今しかないという風に始めていきました。
長曽我部さん:自分は元にあったのは大学で学んでいた化学がとても面白いというのがあったのと、いろんな人から時々聞くビジネスの話も面白いなと感じていて、それで、イベントがあって試しに行ってみようかという気持ちで参加したのが始まりです。そこからやりたい気持ちが強くなったのは、自分とそんなに年の変わらない人が起業をしてその話を聞いてすごく刺激を受けたことが大きいと思います。
飯田:朝倉さんにお聞きします。アニマルスピリッツのお話を受けて、自分のやりたいことを見つけることに悩んでいる人が多くいると思うのですが、そういう人たちにとって朝倉さんの経験からアドバイスできることはありますか?
朝倉さん:とにかく何でも興味を持ったものはチャレンジするのがいいと思います。自分探しをするんじゃなくて自分づくりをすることが大切で、それはやはり色んなことを経験していくしかないと私は思っています。
飯田:関さんと長曽我部さんにもぜひ聞いてみたいのは、大学生の時に起業しようとした時にためらいや葛藤や周りからの反対などありましたか?
関さん:周りからの反対とかはなかったのですが、どちらかというとこれで失敗しても終わりじゃないなという思いの方が強くて、むしろここでやらなかった方の後悔が大きいんじゃないかと思ったので確信をもって進めたと思います。
長曽我部さん:ぼくも後悔したくないということは強く思っていました。ただ、自分が留学している間に同期はみんな就活して就職していってという中で自分はしていないというのはやはり東京などの都市部に比べて地方ではなかなか肩身が狭いということもあった。だからこそ名古屋や東京のスタートアップ界隈の人たちとの交流やそこで得た経験に背中を押してもらったという感覚があります。
飯田:実際に起業してみて想定と違ったことなどありましたか?
朝倉さん:いやぁ、やはり大きな組織の中で働くということと、自分で組織を動かしていくことの違いというものを分かっていなかったと思います。つまり、お金がどういう風に入ってきて出ていくかということのリアリティーを自分でやってみるまでは全くわからなかったんです。例えば資金繰り表っていうものがあって、日常のお金のやりとりとは違って、会社の取引の場合はサービスを提供してすぐにお金が入ってくるわけではないんです。お金が1ヶ月後とか3か月後とかに入ってくるまでの間に社員の給料を払うだとかしないといけない。だから日々お金がどのくらい残っているのかをずっと見ていないといけないんです。それでどう考えてもお金が足りないってなった時にそれをどこで補うのかとかどこからお金を調達するのか、あるいは使うお金を減らすのかってことを散々考えました。その結果、寝ながら夢の中で計算していたりするようになったくらいです。この経験を若いころにできたというのは大きな財産だと感じています。
関さん:起業する前は起業家の人はキラキラしていて成功者ってイメージだったのですが、実際に起業してみると、砂漠の中に立たされているような感じで、何もかも分からないという状況でした。会社を立てるってどうしたらいいのかってことから、実際に会社を立てた後も経理や法務や営業も全部自分たちでやらなきゃいけないとか、1つ契約をとるにも何百件も電話する泥臭さがあるんです。一方で、自分たちが0から作ったサービスで契約が取れて、実際にお金を頂いた時には本当に感動しました。忘れられないくらい嬉しかったです。
長曽我部さん:私もお金の面では何度も頭を下げた経験がありますし、契約を1つ取るにも何百件と伺ってというプロセスが必要でした。特に私の場合は研究開発というプロセスがあるので、素材を一緒に開発しましょうというパートナーを見つけるのにはすごく苦労しました。起業前後のギャップで言うと、私は働いたことがなかったので、どこに行ってもご指摘を受ける、だけれどもスポンジのように聞いたことをすぐに実行していきながら試行錯誤することの楽しさや苦しさがあるのがやりがいですね。
飯田:今のお話はスタートアップの華々しさと同時に泥臭さみたいな部分をお話しいただいたのかなと思いますが、反対に、起業することの楽しさの部分にフォーカスするとしたらいかがですか?
関さん:私たちは机上の空論ではなく、現場に近い中でビジネスをするということを大切にしているので、自分たちが作ったサービスがユーザーさんに届いてリアルな声を聞けて、自分たちのサービスの可能性を日々感じられるということがとても楽しいです。
長曽我部さん:製品開発をしていく中で、世界を揺るがすような面白いデータが出たときはみんなで「これはすごいぞ!」って盛り上がる時は楽しいですし、あとは、自分の事業アイデアを色んな人に毎日のように話していく中でそれに共感してもらったり協力してもらったりする人たちが周りにいるのはとても恵まれているなと感じます。
朝倉さん:成功したことも失敗したことも全部自分の責任として引き受けられることが起業家としての一番の醍醐味だと感じます。組織の中で何か成功しても、やはり手触り感がないし、例えば事業が失敗しても組織の中で働いている以上は自分の責任ではなくトップの責任になる。このように、起業家として成功も失敗もすべて自分の責任として引き受けられるっていうのはとても楽しい。いい仕事したのに自分の関係ないところで意思決定されたことで組織がうまくいかなかったっていうのは私は納得できないんですよね。
飯田:もし令和のこの時代に高校生に戻れたとしたら、どんなことがやりたい、したい、学びたいと思いますか?
長曽我部さん:私は自分が「かっこいいな」って思う憧れの人に会いに行きますね。社会人になると営業に来たのかと思われてしまうけれども、高校生だったら絶対話聞いてもらえます。
関さん:私も人に会うっていうのもやりたいですし、あとは旅に出たいですね、海外とかに行って視野を広げたいです。やっぱり振り返った時の後悔があるとするとやはり視野が狭くて世界のことを知らなかったなと思います。
朝倉さん:何かやりたいことを手探りでやってみると思います、具体的に話すと、今の一番大きい課題はやはり気候変動だと思うので、それを解決するための勉強はしたいなと思いますね。
ここまで3人の登壇者がどんな経緯で起業に至ったのか、起業をする際の酸いも甘いも含め、リアルなトークをお話しいただきました。
「気軽に起業について語り合える場」を持ち、「疑似的な起業体験ができる」スタートアップ・ユースキャンプが今年もまもなくスタートします。応募締め切りは7月12日(水)です。
エントリーはこちらから。皆様のご応募をお待ちしております。
※会場のスライド内で、登壇者の表記に誤りがございました事を深くお詫び申し上げるとともに、ここに訂正させていただきます。
誤表記)関 芳美→正表記)関 芳実